act.43 遭遇
満と恭子、そして正広と慎吾は回廊を歩きつづけていた。
正広は順調に壁に描いた印を見つけ、進路を逆方向に進んでいる。
「もう、そろそろ夜が明けるわね・・・・・・」
「早く戻らないと、大騒ぎになりますね」
恭子が寝室にいないことが発覚すると大問題だ。
特に、俊介などはパニックになるに違いない。
「中居くん、まだ?」
「ん・・・・・、もうちょっと・・・・」
恭子は、腕の中で喉を鳴らす白猫の額をそっと撫でる。
その感触に満足するように、にゃぁと短く鳴いた。
直後、何かを感知したらしく首を起こして耳を揺らした。
「?どうしたの?」
「・・・・・・!中居くん!誰か来るよ!」
気配に敏感な満が注意を促す。
正面から、一つの明りがこちらに近付いてくるのが見えた。
その言葉に、皆が緊張する。入り込んではいけない場所にいるという罪悪感が頭をもたげる。
正広は慌てて周囲を見回すが、そこは一本道だ。隠れる場所などない。
「やべぇじゃん。どうする?」
「どうするもこうするも・・・・・・」
ひそひそと話しているうちに、正広たちの耳にも何者かの足音が聞こえてきていた。
その間隔は早い。早歩きをしているらしい。
「・・・・大丈夫、私がいます。落ち着いてください。ここは私の家の敷地です」
そう言って、恭子が正広たちを庇うように前に出た。
―――かつかつかつかつ・・・・・・
足音がだんだん大きくなってくる。
近付いてくるにつれ、明りの向こうに人影が見えてきた。
「・・・・・・・・・・う、うおずみ・・・・・さん?」
明りの向こうから現れたのは、恭子の父の護衛、魚住新児だった。
彼のほうも、珍しく驚いた表情を浮かべていた。
「・・・・・お嬢さん・・・・・、何故このようなところに・・・・。それに・・・・・」
魚住は、彼女の背後に立つ人物に視線を向ける。
慎吾は居心地が悪そうに会釈をする。一方正広は気圧されることなく魚住を見ていた。
「満。お前が、お嬢さんをこのような場所に連れ出したのか?それに何だそいつらは!?この館にはいるはずのない奴らだろう」
「・・・う、それは・・・・・・・・・。申し訳ございませ・・・・・」
「お前が手引きしたのか?」
「・・・・・・」
ぎくりとした満の前に、小柄な影が飛び出す。
「私が無理やり頼んだんです!」
満の小さな声を遮って、恭子が言い放つ。
「お嬢さんが・・・・・?」
言い訳は通用しない、とでも言いたげな表情だ。
「わ、私の、この猫がいなくなってしまってて・・・・・・。それでここに入り込んでるかもしれないって探してもらってたんです」
突き通すような魚住の視線に怯みながらも、必死に言葉を選ぶ恭子。
「そのようなこと・・・・・・。私か満一人で十分でしょう。何故彼らのような無関係な、しかも無断侵入の輩まで伴っているのですか?」
「・・・・・・・それは・・・・」
まさか、「偶然」を装うことなど不自然すぎて出来ない。
言いよどんだ恭子は、下を向いてしまった。
この声、話し方・・・・・・。
どっかで・・・・・。
「あっ!」
正広が、大声を上げた。
皆びっくりして彼を見た。魚住ですら例外ではなかった。
「あんた・・・・・、そうだあんただ!」
「な、中居くん・・・!」
おとなしくしててという慎吾の制止も無視して、正広はつかつかと魚住に歩み寄った。
「お前は?」
「忘れたとは言わせねぇ。スマスマで、俺と会ったよな!?」
『離れていろ、巻き込まれても知らんぞ』
あの強風の中で、吾郎が姿を消す直前に聞いた声。
見上げた姿。
服装こそ違えど、間違いなく彼、魚住に違いない。
「あの後すぐ、俺の連れが消えたんだ。あんたが消したんだ!!」
指を突きつけながら、正広は糾弾する。
その内容に慎吾は目を剥き、恭子と満は驚愕の表情。
「・・・・・・・知らんな」
いい加減にしろ、と魚住はふっと息を吐く。
「ばっくれんな!!あんたが何か変な呪文唱えてたの、聞いたんだからな!それから吾郎が消えたんだ!」
意外な証言に、皆唖然としている。
魚住は顔色一つ変えないが。
「いるんだろう!?この家のどっかにさぁ、稲垣吾郎が!!返せよ早く!」
「中居くん!」
今にも魚住に掴みかかろうとしていた正広を、満が肩を押さえて引き止める。
「・・・・知らんと言っているだろう。いきなり何なんだお前は」
「何だとぅ〜〜〜〜〜」
「止めなってば中居くん」
再度、満が押さえ込む。
「お前らなどに構っている暇はない。お嬢さん、私と一緒にきて頂きます」
「えっ・・・・・あの・・・・・」
正広の横を素早く通り過ぎ、魚住は恭子の右腕を強引に掴む。支えがなくなったため、白猫がすとんと地面に降り立つ。
「満!こいつらをどうにかしろ」
「は、はい」
ぐいっと恭子を引っ張って、正広を羽交い絞めにした満の背後を通り過ぎる。
満の表情が強張る。
「満さん!」
早足の魚住に引っ張られて、恭子は小走りに後を付いていく。
それでも、必死に振り返って呼びかける。
魚住はもと来た道を歩み去る。
「満さんっ!」
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